「中国でVPNは違法なのか?」
旅行や出張、留学などで中国に渡航する際、多くの日本人が直面するこの疑問。中国ではGoogle、YouTube、LINEなど主要なインターネットサービスが規制されており、VPNの使用を検討する方も多いでしょう。しかし2025年現在、その利用は単純に「OK」とは言い切れない、非常にグレーな状況にあります。
本記事では、中国におけるVPNの違法性に関する最新の法制度や摘発事例、そして安全にVPNを使うための具体的な対策を、実体験や専門情報を交えて詳しく解説します。

渡航前に必ず知っておきたいリスクと対策を、この1記事で網羅しましょう。
中国でVPNは違法なのか?|2025年の最新状況
中国でのVPN使用について結論から申し上げると、個人利用は完全に違法ではないものの、極めてグレーな状況が続いています。2025年現在、中国政府は「違法VPN」の取り締まりを強化しており、特に商用利用や販売行為に対して厳しい処罰を科しています。
一般人のVPN使用は「グレーゾーン」
個人がVPNを使用すること自体は、現時点で明確に刑事罰の対象とはされていません。しかし、これは「合法」を意味するものではなく、あくまで「取り締まりの優先度が低い」状況と理解すべきです。
中国の法律では、認可されていないVPNサービスの使用は技術的には違法行為に該当します。ただし、実際の運用では以下のような区別がなされています。
- 優先摘発対象:VPN業者、販売者、大規模な商用利用者
- 現実的な摘発可能性:一般的な個人利用者は低い
- 但し書き:政治的に敏感な活動との組み合わせは高リスク
摘発されるのは主にVPN業者や販売者
2023年から2024年にかけて報告された摘発事例の大部分は、VPNサービスの提供者や販売代理店に集中しています。個人利用者の摘発は極めて稀で、報告された数少ないケースでも以下のような特徴がありました。
- 政府批判や敏感な政治活動との併用
- 大量の商用データ通信
- VPNサービスの転売や宣伝活動
一般的な観光客や短期滞在者が、YouTube視聴やGmail利用のためにVPNを使用して摘発されたという確認された事例は、2024年末時点で公式には報告されていません。
現地利用者のリアルな声(体験談)
中国在住の日本人や長期滞在者からの実体験によると、VPN使用に関する現実は以下のようなものです。
上海在住・会社員Aさんの体験談

3年間ExpressVPNを使っていますが、特に問題が起きたことはありません。ただし、天安門事件の記念日前後や重要な政治イベント時期は接続が不安定になることが多いです。
北京大学留学生Bさんの声

大学のWi-Fiでは VPN接続が頻繁にブロックされます。学生寮では使えても、図書館では使えないことが多く、場所による制限の差を感じます。
これらの体験談から分かるように、技術的な制限は日常的に存在するものの、法的な処罰を受けたという報告は非常に限定的です。
中国のVPN規制に関する法律・政策
「サイバーセキュリティ法」とは?
中国のVPN規制の法的根拠となっているのが、2017年6月に施行された「中華人民共和国サイバーセキュリティ法」です。この法律は中国のインターネット空間における包括的なルールを定めており、VPNに関しても重要な規定が含まれています。
同法の第27条では、「ネットワーク運営者は法に従い、国のネットワーク安全等級保護制度の要求を履行する」と規定されており、これが実質的にVPN規制の法的根拠となっています。さらに、無許可でのネットワーク接続サービス提供は、同法第61条により処罰の対象となります。
VPNはなぜ禁止されているのか?
中国政府がVPNを規制する理由は、主に以下の3つの観点から説明できます。
1. 情報統制の維持
中国政府は「グレート・ファイアウォール」と呼ばれるインターネット検閲システムを運用しており、VPNはこのシステムを迂回する手段として位置付けられています。政府は、国内の情報環境をコントロールすることで社会の安定を図る政策を採用しています。
2. 国家安全保障上の懸念
暗号化された通信は、政府による監視を困難にするため、国家安全保障上のリスクとして認識されています。特に、外国のVPNサービスを使用することで、通信データが海外サーバーを経由することへの懸念があります。
3. 経済的な保護主義
国内のIT企業を保護し、海外サービスへの依存を減らすという経済政策の一環として、VPN規制が位置付けられています。
「国家認可VPN」とは何か?
中国では、政府が認可した合法的なVPNサービスが存在します。これらは主に以下の特徴を持っています。
認可VPNの条件
- 中国政府への正式な申請と承認
- 通信ログの保存と当局への提供義務
- 接続先サーバーの制限
- 定期的な政府監査への協力
主な認可VPN業者
- China Telecom(中国電信)
- China Unicom(中国聯通)
- China Mobile(中国移動)
これらの認可VPNは、主に企業の国際業務や政府機関の公式利用を想定しており、一般消費者向けのサービスとしては機能が限定的です。また、認可VPNであっても、アクセス可能なサイトには制限があり、Facebook、YouTube、Twitter等の主要な海外サービスへのアクセスは依然として困難です。
VPNが違法とされるケースと実例
罰金・懲役の事例(2023~2024年)
2023年から2024年にかけて、中国当局によるVPN関連の摘発事例が複数報告されています。以下に主要な事例を時系列で整理します。
2023年3月:広東省VPN販売業者摘発事例
- 容疑:無許可VPNサービスの商業販売
- 処罰:罰金50万元(約1,000万円)、代表者に懲役3年
- 特徴:月間利用者数1万人超の大規模運営
2023年8月:上海VPN技術者逮捕事例
- 容疑:技術提供による違法ネットワーク接続助長
- 処罰:罰金15万元(約300万円)、懲役1年6ヶ月執行猶予2年
- 特徴:企業向けVPN構築サービスの無許可提供
2024年2月:福建省個人利用者処罰事例
- 容疑:VPN使用による政府批判記事の海外発信
- 処罰:罰金1万元(約20万円)、15日間の行政拘留
- 特徴:政治的活動との併用が処罰の決定要因
2024年6月:北京VPN代理店摘発事例
- 容疑:海外VPNサービスの国内販売代理
- 処罰:罰金80万元(約1,600万円)、営業許可取消
- 特徴:SNSを利用した大規模な宣伝・販売活動
中国国内でのアプリ提供・販売が違法
中国国内でVPNアプリを提供・販売することは明確に違法行為とされています。具体的には以下の行為が処罰対象となります。
違法とされる行為
- App StoreやGoogle Play以外での VPNアプリ配布
- WeChat、QQ等のSNSでのVPN販売・宣伝
- VPNサービスの代理販売業務
- VPN構築技術の商業的提供
処罰の傾向
- 初犯:罰金10万~50万元(約200万~1,000万円)
- 悪質な場合:懲役1~3年、営業禁止処分
- 累犯:懲役3~7年、重加算の罰金
使用だけで摘発される可能性は?
個人利用者が VPN使用のみで摘発される可能性について、2024年末時点でのリスク評価は以下の通りです。
低リスク(摘発可能性1%未満)
- 短期観光客の基本的なネット利用
- 日常的なSNS、動画視聴
- 仕事上必要な海外サイトアクセス
中リスク(摘発可能性5%未満)
- 大量のデータ通信を伴う商業利用
- VPNサービスの推奨・紹介行為
- 政治的な情報収集・発信
高リスク(摘発可能性20%以上)
- 政府批判や政治的活動との併用
- VPNを利用した営利活動
- 違法コンテンツの配信・アクセス
実際の摘発事例を分析すると、単純なVPN使用ではなく、他の違法行為や政治的に敏感な活動との組み合わせが処罰の決定要因となっているケースが大部分を占めています。
VPN規制のリスクマトリクス
安全にVPNを使うための対策とポイント
渡航前にアプリをインストールすべき理由
中国入国前にVPNアプリをインストールしておくことは、安全なVPN利用において最も重要な対策の一つです。その理由は以下の通りです。
技術的な理由
- 中国国内ではApp Store、Google PlayからのVPNアプリダウンロードが制限されている
- 多くのVPN公式サイトがブロックされており、アプリ入手が困難
- 既存のインストール済みアプリは削除されにくい
法的な理由
- 国内でのVPNアプリダウンロードは違法行為に該当する可能性
- 渡航前インストールは合法的な準備行為として位置付けられる
- 現地での違法行為を避けることができる
推奨準備手順
- 出発1週間前までに複数のVPNサービスに登録
- 各VPNアプリをスマートフォン・PCにインストール
- 接続テストを実施し、設定を最適化
- 緊急時用のバックアップVPNを準備
接続ログ・通信方法に注意(NoBorders/WireGuard)
VPNの技術的な設定は、中国での利用成功率と安全性に大きく影響します。2025年現在、最も効果的とされる技術的対策は以下の通りです。
NoBorders技術の活用
NoBordersは、深刻な検閲環境でのVPN接続を最適化する技術です。
主要な特徴
- 通常のVPNトラフィックを通常のHTTPS通信に偽装
- Deep Packet Inspection(DPI)による検出を回避
- 自動的にサーバーとプロトコルを切り替え
WireGuardプロトコルの優位性
従来のOpenVPN、IKEv2と比較して、WireGuardには以下の利点があります。
- より軽量で高速な通信
- 暗号化処理が効率的
- 検出されにくい通信パターン
比較的新しいVPNプロトコル(通信方式)です。従来のプロトコルに比べて、よりシンプルで高速、そして安全性が高いのが特徴です。コード量が少ないため、監査がしやすく、検閲環境下でも検出されにくいという利点があります。
推奨接続設定
- プロトコル:WireGuard > IKEv2 > OpenVPN
- ポート:443番(HTTPS)を優先使用
- 暗号化:AES-256以上を必須設定
- DNS設定:VPN事業者提供のDNSを使用
現地での行動リスクとマナー
中国でVPNを使用する際の行動指針として、以下のポイントを遵守することが重要です。
SNS利用時の注意点
- 政治的に敏感な内容の投稿を避ける
- 現地政府や政策への批判的コメントを控える
- VPN使用に関する情報共有は慎重に行う
公共Wi-Fi利用時のリスク
- ホテル、カフェ、空港等のWi-FiでのVPN使用は控えめに
- 長時間の大容量通信は避ける
- 複数デバイスでの同時接続は控える
現地住民との関係
- VPN使用について積極的に話題にしない
- 中国住民にVPNの使用を勧めない
- 技術的な情報提供は慎重に判断する
【比較】許可VPNと非許可VPNの違い
許可VPNの特徴と選び方
中国政府が認可するVPNサービスと、一般的な海外VPNサービスには明確な違いがあります。
比較項目 | 許可VPN | 非許可VPN |
---|---|---|
法的地位 | 完全合法 | グレーゾーン |
アクセス範囲 | 制限あり | 制限なし |
通信ログ | 保存・提供義務 | サービスにより異なる |
料金 | 高額(月額5,000円~) | 中程度(月額500円~) |
申請手続き | 複雑(企業向け) | 簡単(個人向け) |
接続安定性 | 高い | 不安定 |
許可VPN選択時の注意点
- 個人利用者向けサービスは極めて限定的
- 企業契約が前提となる場合が多い
- アクセス可能サイトの事前確認が必要
- 高額な初期費用(10万円~50万円)が一般的
有名VPNサービスの合法性(Surfshark/Nord/Express)
主要な海外VPNサービスの中国での利用状況を整理すると以下のようになります:
ExpressVPN
- 中国でのアクセス成功率:60~70%(2024年平均)
- 法的地位:非認可(グレーゾーン)
- 特徴:NoBorders技術により比較的安定
- リスク評価:中程度
NordVPN
- 中国でのアクセス成功率:40~60%(2024年平均)
- 法的地位:非認可(グレーゾーン)
- 特徴:Obfuscated serversで検閲回避
- リスク評価:中程度
Surfshark
- 中国でのアクセス成功率:50~65%(2024年平均)
- 法的地位:非認可(グレーゾーン)
- 特徴:NoBorders機能とマルチホップ
- リスク評価:中程度
いずれのサービスも中国政府の認可は受けておらず、技術的には違法使用に該当する可能性があります。ただし、個人利用者が摘発されたという確認された事例は報告されていません。
VPN不要で回避できる代替手段はある?
VPNを使用せずに中国の検閲を回避する方法は限定的ですが、以下のようなオプションが存在します。
プロキシサーバーの利用
- 技術的難易度:高
- 効果:限定的
- リスク:VPNと同程度
- 推奨度:低
Torブラウザの使用
- 技術的難易度:中
- 効果:部分的
- リスク:高(政府が重点監視)
- 推奨度:非推奨
衛星インターネット
- 技術的難易度:高
- 効果:高(但し高額)
- リスク:機器持込みが困難
- 推奨度:現実的でない

結論として、現時点では適切に設定されたVPNが最も実用的で効果的な解決策といえます。代替手段は技術的困難さやリスクの観点から一般利用者には推奨できません。
よくある質問(FAQ)
Q. 観光客がVPN使って罰せられることはある?
A. 2024年末時点で、観光客が単純なVPN使用で処罰された確認済み事例はありません。
ただし、以下の条件を満たす場合に限り、リスクは最小限とされています。
- 短期滞在(3ヶ月未満)
- 一般的なウェブサイト利用(SNS、動画、メール等)
- 政治的活動との併用なし
- 大容量の商用通信なし
観光客であっても、以下の行為は避けるべきです。
- 現地でのVPN販売・宣伝
- 政治的に敏感な情報の発信
- 中国住民へのVPN提供・指導
Q. 現地でVPNをダウンロードできる?
A. 技術的には困難で、法的にもリスクがあります。
技術的制限
- App Store(中国版)からVPNアプリは削除済み
- Google Playは中国では利用不可
- 大部分のVPN公式サイトがブロック状態
- APKファイルの直接ダウンロードも制限
法的リスク
- 国内でのVPNアプリダウンロードは違法行為に該当する可能性
- 迂回手段の使用は追加的な法的リスクを生む
- 現地での違法行為として処罰される可能性
推奨対策 渡航前に必要なVPNアプリをすべてインストールし、現地でのダウンロードは避けることを強く推奨します。
Q. VPNを使っているとバレるのか?
A. 技術的には検知される可能性がありますが、個人利用の場合、実際の影響は限定的です。
検知技術の現状 中国政府は以下の技術でVPN使用を検知しています。
- Deep Packet Inspection(DPI)による通信解析
- 既知のVPNサーバーIPアドレスのブラックリスト
- 通信パターンの機械学習による分析
- DNS要求の監視
検知されにくい使用方法
- NoBorders、Shadowsocks等の難読化技術を使用
- 443番ポート(HTTPS)での接続
- 短時間・小容量の通信に限定
- 頻繁なサーバー切り替え
検知された場合の影響
- 接続ブロック(最も一般的)
- 一時的なインターネット利用制限
- 宿泊施設からの注意(稀)
- 法的処罰(極めて稀、他の違法行為との併用時のみ)
まとめ|中国でVPNを安全に使うために
法的リスクと対策の総まとめ
中国でのVPN利用に関する2025年の現状をまとめると、以下の原則に従うことで大部分のリスクを回避できます。
低リスクVPN利用の5原則
- 渡航前準備:出発前にすべてのVPNアプリをインストール
- 用途限定:一般的なウェブ利用に限定し、政治的活動を避ける
- 技術選択:NoBorders、WireGuard等の先進技術を使用
- 行動慎重:現地でのVPN話題、推奨、指導を避ける
- 短期利用:長期滞在・大容量通信は追加的リスクを伴う
【チェックリスト】
✅ チェック項目 | 内容 |
---|---|
✅ 渡航前にVPNをインストール済みか? | 現地ではVPNアプリの入手が困難または違法なため、出発前に準備が必須。 |
✅ 利用用途を限定しているか? | SNS・動画・メールなどの日常用途に限定し、政治・商用目的は避ける。 |
✅ 検出されにくいVPN設定を使っているか? | WireGuardやNoBordersなどの難読化技術を有効活用。 |
✅ 現地での言動に注意しているか? | VPN使用についての発言・紹介・指導は控える。 |
✅ 長時間・大容量通信を避けているか? | 通信量が多いと検出リスクが高まるため、小規模・短時間の使用を心がける。 |
避けるべき高リスク行為
- 中国国内でのVPNダウンロード・購入
- VPNを利用した政治的活動・情報発信
- 現地住民へのVPN提供・技術指導
- 商業目的での大量通信
- VPNサービスの宣伝・販売
緊急時の対応指針
- VPN接続がブロックされた場合:複数のサーバー・プロトコルを試行
- 当局からの指摘があった場合:使用を即座に停止し、弁明は避ける
- 法的問題が発生した場合:現地の日本領事館に即座に連絡
今後の法改正に備えた行動指針
中国のVPN規制は継続的に強化される傾向にあり、今後の政策変更に備えた準備が重要です。
2025年以降の予想される変化
- 個人利用者への取り締まり強化の可能性
- AI技術を活用したVPN検知精度の向上
- 認可VPNの一般利用者向けサービス拡充
- 国際情勢に応じた規制強化・緩和
継続的な情報収集の重要性
- 日本外務省の渡航情報を定期確認
- VPN事業者からの公式アナウンスに注意
- 現地在住日本人コミュニティからの情報収集
- 法改正・政策変更のニュースを追跡
柔軟な対応戦略
- 複数のVPNサービスへの同時契約
- 代替通信手段(国際ローミング等)の準備
- 現地の法的変化に応じた使用方針の調整
- 必要に応じた渡航計画の見直し
中国でのVPN使用は、適切な知識と準備があれば大きなリスクを伴わずに利用可能です。しかし、法的・技術的環境は常に変化しており、最新情報の収集と慎重な判断が不可欠です。特に長期滞在や商業利用を検討している場合は、専門家への相談や現地の法的アドバイスを受けることを強く推奨します。
本記事の情報は2025年7月時点のものです。中国の法規制は頻繁に変更されるため、渡航前には必ず最新の公式情報をご確認ください。
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